そうして、その日の3時間目、体育の授業が始まった。 第1回目の授業は少々特殊で、桜映が所属する1年1組と香蓮が所属する1年2組の合同で行われる。 咲也の授業内容は、冒頭で簡単にダンスについての説明をした後、実演を交えつつ基礎的なテクニックを教え、最後は生徒に自由に踊らせると言うものだった。 雑学を聞かせるより、実際にダンスを経験し、楽しんでもらいたいと考えた為だ。 花護宮高等学校は校内にダンスチームが存在しないがこれは珍しい事で、ダンスが強い注目を浴びている世情もあり、ダンスを授業として取り入れている学校は全国的に多い。 それもあってか、ダンスが全くの未経験と言う生徒はそう多くなかった。生徒の中にはちらほらと経験者の動きをする子もいたが、その中でも一際目立つ生徒が1人いた。 「すみれちゃん、すごい……」 後ろで見ていた香蓮が呟いた。 しかし、彼女のダンスに目を奪われたのは香蓮だけではなかった。 同じ2組の生徒も、咲也も、1組の桜映も彼女のダンスから目を離せなかった。 彼女――水川すみれのダンスの実力はそれほどに圧倒的であった。 すみれはダンスに集中しているのか、周囲の視線も意に介さず踊り続けていた。 その様子を見つめていた香蓮は、そのダンスと同等かそれ以上にすみれの輝いた笑顔が印象に残った。 「あの時のさえちーと同じだ……」 香蓮はまた呟いた。 すみれの笑顔から、先日階段の踊り場で見た桜映の表情と同じものを感じた。 どうしてなのか、理由は分からない。 たが、羨ましいという自分の正直な気持ちだけはようやく分かった気がする。 そんな事を考えながら、香蓮はダンスが終わるまでずっと、すみれを見つめていた。 桜映もまた、自分が踊る事も忘れて、すみれのダンスに見入っていた。 桜映がその時考えていた事は、あの子と一緒にダンスがしたい、それだけだった。 だから、授業中にも関わらず桜映はすみれの元へ近付いていった。 一緒にダンスをしようと呼びかけるために。
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