すみれは無心で踊り続けていた。 授業中である事も忘れてただただ踊り続けた。 ひとしきり踊り終えたとき、周囲の拍手でようやく授業中である事を思い出した。 それと同時に、周囲の生徒が全員自分のことを見ている事に気付いた。 自分はなにかミスをしてしまったのだろうか、周囲の生徒が何も言わない事に殊更焦りを覚えた。 「あの、えっと……」 とりあえず、何か言った方が良いかと、すみれが口を開いた矢先、それが合図とでも言わんばかりの勢いで、周囲の生徒が駆け寄ってきた。 たちまちすみれを囲んで輪が形成され、中心にいるすみれに対して皆が口々に賞賛の言葉を投げ掛けた。 しかしながら、当のすみれはその勢いに困惑するばかりである。 「あの、ごめんなさい。あまり押さないで……」 すみれが人の輪から抜け出そうとしていると、輪の外から一際大きな声が掛かった。 「ごめんなさい!ちょっといいかな!」 声に驚いた生徒が思わず道を空け、声を上げた生徒がすみれの元に歩み寄ってきた。 すみれは、きょとんとした顔で彼女を見つめていた。 「あなたは……?」 「はじめまして!あたし、1年1組の春日桜映。ダンス、すごく良かった!それでね、あたしと一緒にダンスチームを作らない?」 「はい?」 あまりにもストレートな物言いに、周囲の生徒と同様に呆気にとられていた香蓮が慌てた声を出した。 「ちょ、ちょっとさえちー?いきなりなにを言ってるの!?」 「あ、香蓮。香蓮も見てたでしょ、今のダンス。あたし、彼女と一緒にダンスがしたいの」 呆然としていたすみれが、少しだけ落ち着きを取り戻すと香蓮に問いかけた。 「香蓮、知り合いなの?」 「う、うん。お友達の春日桜映ちゃん」 すみれは、桜映に向き合い無表情に告げた。 「そう。……ええと、春日さん?誘ってくれるのは嬉しいのだけど、私はダンスをする気はないの。悪いんだけど他を当たってくれる?」 「なんで?あんなに楽しそうに踊ってたのに!ダンス、好きなんだよね?だったら――」 「楽しそう?私が?」 言うとすみれは一瞬ハッとした表情を浮かべたが、すぐに無表情に戻して言葉を続けた。 「……ごめんなさい。何を言われても私はダンスチームには入らない。この話はここまでにしてくれないかしら」 「そんな……!」 桜映が更に言葉を続けようとしたところで咲也が間に入り込んだ。 いまはまだ授業中。このまま続けば、授業が成立しなくなってしまうからだった。 しかし、授業再開後のすみれは一度も踊ることはなく、授業が終わるとすぐに校舎へ戻ってしまった。 桜映も追いかけようとしたが、香蓮と咲也に呼び止められた。 すみれを見失ってしまった桜映は、香蓮と咲也と話していた。 「水川さんだっけ?すごかったなー、あのダンス」 「もう。確かにすごかったけど、さっきのさえちーは強引過ぎだよ。すみれちゃん驚いちゃうよ」 「う。えっと、水川さんとダンスしたいって思ったら止まらなくて……。ごめんなさい」 「ダンスかそれに近しいなにかか。間違いなく彼女は経験者だろう。初心者の動きではなかった」 「やっぱり水川さんにチームに入って欲しいな。……ううん、違う。あたし、彼女がいいの!彼女と一緒に踊りたい!水川さんのダンスを見て、すごい好きになっちゃった」 「さえちーったら。……わかった。あとでかれんからもお話してみるね」 「もしかして、香蓮がいつも一緒にご飯食べてる相手って、水川さんなの?」 「うん!お料理もとっても上手なんだよ、すみれちゃん。今日も一緒にお弁当を食べるから、その時にお話してみるね」 「そうなんだ。ありがとう!よろしくね!!」 「確かに彼女がメンバーになってくれれば心強いな。芳野さん、俺からも頼むよ。無理強いはできないけど、俺も彼女のダンスをもっと見てみたいんだ」 「はい。かれん、頑張ります!」
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