この日流れたのは僅か2分弱のPVだったにも関わらず、映像が終わると誰からともなく賞賛の拍手が巻き起こった。 それは、<蒼牙>と言う存在の特異性を顕著に現した光景だった。 周囲に釣られて思わず拍手をしていた香蓮が桜映に声を掛けようと横を見ると、3度目になるあの表情がそこにあった。 桜映とすみれとの共通点からその表情がどういったものなのか、なんとなくではあるが理解できた香蓮は、羨ましいと思うと同時に自分もそうでありたいと強く思いながら、桜映の横顔を見つめ続けた。 「さてと、それじゃあ帰ろっか!」 「うん。まさかこんなところで蒼牙さんを見るなんて思わなかったね」 「ホントだよ。あー、ビックリした!――でも、やっぱりすごいなぁ」 「そうだね。さえちーがダンスを大好きになるのも分かる気がしたよ」 「でしょ?あ、そうだ香蓮。最後にあの店に寄っていい?」 そう言って桜映が指差したのは小さな本屋だった。 「本屋さん?だいじょぶだけど、さえちーが本屋さんなんて珍しいね?漫画でも買うの?」 「ううん。さっきのPVに今日発売の雑誌に蒼牙の特集記事があるって出てたから。ちょっと見てみたいなーって」 「そういえば出てたね。売り切れてないといいけど」 「うん。とりあえず探してみるよ」 返事をしながら桜映が本屋に入ると、雑誌コーナーには先客がいるようだった。 立ち読みに集中しており、動く気配のない先客の後ろから目当ての雑誌がないか探してみたが一向に見つからない。 売り切れてしまったかと諦めて桜映が棚から離れようとすると、偶然先客の読んでいる雑誌の表紙が目に入った。 「あっ!それって!!」 目当ての本を見つけ、思わず桜映が大きな声を上げた。 その声に驚いた先客が振り返ると、桜映と香蓮が同時に「あ」と声を上げた。 「え……?あなた、春日さん!?それに香蓮も……!?」 本屋の先客――水川すみれは驚きを隠せない表情で、桜映と香蓮を見つめていた。
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