「千彗子、これから大丈夫?」 「あなた1人になっちゃうけど、新メンバーの勧誘とかやっていけそう?」 卒業式の後、2人の先輩は私――須藤千彗子に不安そうな顔を向けながら訊ねた。 「うっ、ううう。えっと、その、グスッ。こ、心当たりはないですけど、去年の先輩たちみたいに、新入生の中からメンバーを見つけられるように、が、がんばります!」 「千彗子……。気持ちは分かったから、まずは落ち着きましょうか。ホラ、涙拭いて」 「こんなに泣かれたら、私たちが泣けなくなっちゃったね」 「うう、すみません……」 私たち3人はこの1年間、私立聖シュテルン女学院のダンスチーム<エトワール>のメンバーとして、日々を過ごしてきた。 残念ながら学内選抜大会で負けてしまい、トリニティカップの地方予選にすら出場することは叶わなかったけれど、とても良いチームだったと我ながら思う。 けれど、1年生である私以外の2人のメンバーが3年生だった為、メンバーを新たに2人見つけなければ、今後チームとして認められず、学内選抜大会にもエントリーが出来なくなってしまう。 受験勉強で忙しい中、先輩達は暇を見つけてはメンバー集めを手伝ってくれたけど、結局卒業式まで新メンバーが加入することはなかった。 卒業式の後、先輩たちへ改めて挨拶をと向かったはずなのに、自然と話は来年からの私の話に変わっていた。……感極まって私が先輩たちに会うなり泣き出してしまったからかもしれないが。 「――落ち着いた?千彗子?」 「はい……。すみませんでした」 「千彗子が涙もろいのは知ってるから大丈夫よ。それにしても、新入生からメンバーを2人集めるって事は、新チームは千彗子がリーダーになるのよね?」 「えぇっ!?わ、私がリーダー?そんな、私なんて柄じゃないですよ!」 「なに言ってるのよ。千彗子はよく気が回るし、向いてると思うけど?」 「うーん。自分ではサポートの方が向いていると言うか楽しいと言うか……。いやいや、それよりもまずはメンバーを集めないと、ですよね」 「……千彗子、ごめんね。あまり力になれなくて。無理にこのチームにこだわらなくたっていいのよ?」 「大丈夫です。私、先輩たちと一緒に作ったこのチームが大好きなんです。先輩たちと一緒に踊れなくなってしまうのは残念ですけど、今年は新生エトワールとして、トリニティカップに出場してみせますから!」 「そう……。うん、なら千彗子に任せるわ。私たちの分まで頑張って!目指せ、<クイーン>ってね!」 「はい!先輩たちも大学で頑張ってください!」 校門から出て行く先輩たちへ手を振りながら、改めて考える。 先輩たちにはああ言ったものの、自分にメンバーが集められるか不安で仕方ない。 それでも。 それでも、今のままチームとしてダンスができずにいるのはもっとイヤだった。 だから、思わず出てしまいそうなため息を意識して抑え、私は校舎へと足を向ける。 ――校門は、振り返らなかった。
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