ダンスチームに入る。 言うのは簡単だがどうすれば良いのだろう。 学内選抜大会へのエントリーも迫っているし、口下手な僕が1からチームを作ろうとするのは現実的ではないだろう。 となると、メンバーを募集しているチームに入るのが良いのだけど……。 現時点で未だにメンバーを募集して入るチームなんてあるのだろうか。 数日前まではメンバー募集で騒がしかった校舎も、いまでは学内選抜大会へ向けて、数多くのチームが校舎の様々な場所で練習している。 校舎を回ってみた限り、メンバーを募集しているチームは、1つも見当たらなかった。 ……まぁ、もしあったとしても、そのチームというか生徒には何か問題があるとしか思えないのだけど。 とは言え、僕の目的の為にはなんとしてもダンスチームに入らなければならない。 探しても見つからないのなら、向こうから見つけてもらうまでだ。 僕は放課後の校舎、比較的目につきやすい場所で踊り始めた。 事情を知ったら滑稽だと思われるかもしれないけど、僕は絶対に諦めない。 *** その後1時間程踊り続け、流石に息が上がってきたので休憩をと思い、僕は近くのベンチに腰掛けた。 僕のダンスを見ている生徒は何人かいたけど、誰からも声は掛からなかった。 まぁ、すぐに結果が出るとは思っていない。 時間がある訳ではないが、焦っても仕方ない。 少し休憩したら場所を変えてみようかな、そんな事を考えていると、うっとうしい位の拍手をしながら1人の男性が僕の前にやってきた。 「ハッハッハ!エクセレント!中々良いダンスだったぞ!!」 「…………」 「どうした?息が上がって声が出ないか?それとも僕に見惚れていたのか?」 「……誰ですか」 「おっと、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものだぞ?」 「失礼します」 「あ、待って待って!僕の名前は神奈星司(かんなせいじ)!この春からこの学校の体育教師に着任した生まれついてのエリートさ!」 「聞いてないです。……僕に何の用ですか」 「ハハハ。いやなに、キミを僕が指揮するダンスチームに招こうと思ってな。和泉晶くん」 「どうして僕の名前を。警察……!」 「ちょーっと待って!先生だって言ったのになんで警察呼ぶんだ!?身分証明書ならあるぞ!ほら!」 その男性――神奈先生はこの学校の教職員証明書をやたらとオーバーアクションで見せ付けてきた。 なんで証明書の写真なのにポーズを決めているんだこの人。 「…………」 「コホン、その疑いの視線を止めたまえ。まったく。それで、僕の誘いを受けるのか?」 「受けるも何も……。そのチームのメンバーはいまどこに?」 「わからん」 神奈先生は自信満々に答えた。 やはり僕をおちょくっているのだろうか。 思わず刺のある言い方になってしまう。 「は?」 「お、怒るな怒るな。……ええと、どうせそうなるから説明を省いたが、厳密にはこれから僕がトレーナーとして指揮する予定のチームだ。キミを入れて丁度3人になる。実力は間違いなく学校一だ」 「そんな話を信用しろと?」 「信じる信じないはキミの自由だ。だが、気付いているはずだ。既にこの学校内でメンバーが集まっていないチームがほぼいない事に。けれど全てではない。僕の知る限り、あと1つだけメンバーが集まっていないチームがある。キミがトリニティカップに出場したいというなら、僕の話を呑むしかないのさ」 「脅迫ですか」 「ノンノンノン!これは事実だ。そして、賢明なキミならどの選択肢が正解か既に分かっているはずだ」 「それは……」 僕の反応を予想していたのだろうか。 神奈先生は大仰な身振りをしながら話を続ける。 「とは言え、確かに急な話だ。僕と運命的な出会いをした事による衝撃もあるだろう。そこで、気持ちを落ち着かせる為にも1日待とう。明日のこの時間、この場所で待っているぞ!」 「…………」 神奈先生が満足した様子で言い切ったのを合図に、僕は背を向けて歩き始めた。 会釈もしないのは失礼だと思ったけど、いまは静かな場所で頭の中を整理したい。 「あ、あれ?リアクションなし?あの、明日待ってるからなー!!」 後ろから声が響く。 最初から最後までうるさい人だった。 ただ、言っている事が的を射ている事も理解できる。 正直、上手すぎる話だと思ったし不安もあったけれど、僕がどうするかはすぐに決まった。 *** そして翌日の放課後。 僕は昨日と同じ場所で神奈先生と向き合っていた。 「やはり来たな。晶くん」 「馴れ馴れしい……」 「ん?何か言ったか?」 「いいえ。それより、先生に1つ質問があります」 「いいとも。なんでも聞きたまえ」 「なぜ、僕に声を掛けたんですか」 「昨日のダンスを見たからだが?」 「それだけではないはずです」 「なぜそう思う?」 「勘です」 僕の返答を聞いた神奈先生は、少しだけポカンとした顔を見せたが、すぐに楽しそうに笑い始めた。 「ハハハ、面白いな。確かに、最初からキミに目を付けていた。去年、君を見た時からね」 「去年って……。あの、春の大会を?」 「ああ。優勝こそ逃したが、孤高に輝くキミを見て、ダンスをさせてみたいと思った。まぁ、キミが聖シュテルンに来るとは思ってもみなかったがね。知った時は自らの幸運さに感動したほどだ」 「…………」 「だが、肝心のキミはダンスに興味がなさそうだったのでな。どうやって勧誘しようか脳細胞をフル稼動していたのだが、まさかキミから動き出してくれるとはな!やはり僕は神に愛されている!」 「はぁ」 「と言う訳だ!理解できたか?それでは行くぞ!残りのチームメイトのところへ!」 「どこにいるんですか?」 僕の質問を聞いた途端、いきなり神奈先生が背を向けてしゃがみこんでしまった。 突然の事に少し面喰らっていると、先生が言い辛そうに切り出した。小声だった。 「……あー。えっと、わからない。昨日も探したが見つけられなかった……」 「はぁ……」 そしてそれから数十分後、僕らはその空き教室に辿り着いたのだった。
|