Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



「ていうかさー?アタシ達3人が2年で同じクラスになったのって、学校側が操作してると思わない?大人の事情ってヤツ?マジヤバくない?」
「?」
「理央奈、口より手を動かせ」

 ここは獅子王大学付属高等学校の生徒会室。
 今この部屋にはアタシ――鷹橋理央奈の他に、虎谷大河と鮫坂アリサがいる。
 なんでかと言うと理由は簡単で、生徒会の仕事をしているのだ。

「私とアリサはもう終わるぞ。遅れているのは理央奈だけだ」
「え?マジ?ちょ、手伝ってよ、大河ぁ」
「断る」
「えー?それじゃあ……。ね、ね?アリサは?手伝ってくれるよね?」
「やだ」

 2人とも即答だった。
 頬を膨らませてアタシは続ける。

「2人とも冷たくない?アタシ達、生徒会だけじゃなくて<蒼牙>のチームメンバーでもあるワケじゃん?仲間が困った時は助け合いって習ったでしょ?」
「自業自得だ、甘えるな」
「ケチ」
「なにか言ったか?」
「いーえ?なーんにも。マッハで終らせるから待っててよ!」

 大河がジロリとこちらを見る。おーこわっ。
 アタシ達3人は去年、獅子王高校代表のダンスチーム蒼牙としてダンスの全国大会トリニティカップに出場し、優勝した。
 その事はとても誇らしい。アタシは蒼牙のメンバーとなる為にこの学校に入学したのだから。
 しかし、学校の顔と言っても過言でない蒼牙のメンバーはその年の生徒会役員にならなくてはならないと言うルールがあったのだ。
 4月になって進級した事で、昨年度までのチームは一旦解散されたけれど、生徒会は今年度の蒼牙が決まるまでは解散にならない。
 そんな訳で、新年度が始まったばかりのどこか落ち着かない雰囲気の校内とは無縁に、アタシ達は放課後の生徒会室で溜まった仕事を片付けているのであった。

「そもそもさー。蒼牙として忙しいのに、生徒会の仕事までやれっていう方がおかしくない?去年なんて1年生で学校の事も良く知らなかったのに」
「理央奈……。今日は本当に良く喋るな」
「手も動かしてるから大丈夫だって!」
「……さっきの」

 あら珍しい。アリサが自分から話を振ってきた。
 どうやらさっきのアタシの話が少し気になっていたようだ。

「あぁ、クラスの話?だってさ、去年バラバラだったアタシらが2年でいきなり3人全員同じクラスになるなんて、フツーなくない?」
「そうなのか?珍しくもないと思うが」
「いやー。アタシが思うに、きっと学校側がまたアタシ達3人にチーム組めって言ってるんだよ」
「……選抜大会?」
「そうそう。学内選抜大会にエントリーする前ならチームメンバーは変更できるしね。実際、新しいチームがどんどん出来てるんだってさ」

 学内選抜大会という単語に反応したのか、それまでリアクションの薄かった大河が若干身を乗り出して聞いてきた。
 ……ホントにダンスの事となると目の色変わるよね。

「ほう、学内選抜大会か。今年は私たちに勝てるような生徒、と言うかチームはいるのか?」
「アハハ、いるわけないない。もしそんな生徒やチームが居たとしても、アタシ達が別々のチームにならない限りは問題ないっしょ」
「解散?」

 アリサがアタシと大河を見ながら首を小さく傾げる。
 1年前は彼女が何を言っているのか理解するのに苦労したけど、いまや大抵の事はアタシと大河には伝わる。慣れとは凄いものだ。

「チームの解散は考えていない。誰が相手だろうと関係ない。最高のダンスを究めるのみだ」
「ホント、大河はダンスの事になるとアツイよねー。……よっし、終わり!」

 大河が迷いのない言葉で締めくくったのとほぼ同時に、生徒会副会長のアタシに振られていた仕事も終わった。
 アタシが自慢げに完成させた資料をプリントアウトして見せると、呆れた様子で大河が口を開いた。

「まったく。なぜ最初からそうしないんだ」
「だってー。ネイルが少し落ちてたんだもん。気になって集中できなかった、みたいな?」
「一応聞いておくが適当な仕事はしていないだろうな?」
「してないって。また大河に文句言われたくないし」

 大河が小さな溜息を1つ吐き。
 アタシとアリサから資料を受け取ると、自分の作成した資料と一緒に机でトントンと整える。

「……いいだろう。では、私はこれを職員室に提出してくる。理央奈とアリサは先に練習に向かっていてくれ」
「マジで?今日も練習すんの?アタシ、新しい洋服とかアクセ買いに行きたいなー」
「何を言っている?練習は毎日するものだし、買い物より練習が優先だろう?」

 アタシの言葉に、心底不思議そうに大河が腕を組みながら首を傾げる。

「はぁ……。出たよ天然。怒ってたり呆れたりしてる訳じゃないのが、余計にタチ悪い」
「???なんのことだ?」
「いや、こっちの話。気にしないで。……うん?」
「ん」

 後ろを見ると、アリサがアタシの制服の裾をくいと引っ張りながら首を傾げる。
 『練習、行くの?』と聞いているのだ。

「はいはい。行きますよー。あ、でもちょっと待ってて!練習前にネイルだけ直させて!」
「エスカレートしすぎないようにな」
「はいはい。それじゃまた後でね。ほらアリサ、行こっか」

 言うと、アタシはアリサの手を引いて練習室へ向かった。
 アリサはされるがまま、表情を変えずアタシについてくる。可愛い小動物みたいだ。


ページの一番上へ



ストーリーのトップページへ戻る