「ようやく終わったー。ホント、長かったねー」 「ん」 アタシの言葉にアリサが頷く。 学内選抜大会が終わった後、アタシ達3人は阪井先生から話があると、練習室に集まっていた。 無事に<11代目蒼牙>になったんだし、恐らくこれからの練習についてだろう。 「今日のダンスにはまだまだ問題点もあった。2人とも気は抜かないようにな」 「わかってるって。大丈夫、大丈夫。……それより、阪井先生遅いね」 「確かに。何かあったのだろうか……」 「やー、ごめんごめん。待ったー?」 アタシ達がなんとなくドアの方に目を向けるのと、阪井先生が入ってくるのはほぼ同時だった。 口では謝っているが、先生は「あはは」と朗らかに笑っており、本当にそう思っているのかは怪しいものだ。 「先生、おそーい。アタシ達疲れてるのにさー」 わざとらしく口を尖らせてみる。 ……こ、この位なら怒られないよね? 「ごめんって。あんた達の為に、色々話を纏めてきたのよ」 「私たちの為、ですか?先生、それは一体……?」 大河が先生に訊ねる。 大河が知らないと言う事は、アタシ達の誰にも知らされていないと言う事でもある。 「んふふ、喜びなさい。来週、関東でのTV出演の仕事が決まったわ!生放送よ、生放送!短い時間だけど、全国ネットで11代目蒼牙のお披露目よ。と言う事で来週は関東に行くからそのつもりで。何か質問ある?なかったら今日は解散ね」 「…………はい?」 アタシは思わず間抜けな声を出してしまった。 大河とアリサと言えば、表情を変えずに頷いている。いやいやいや。 いま、先生はなんて言った? 関東に行く?それはいい。関東が初めてと言うわけでもない。 TV出演?それもいい。めっちゃ緊張はするけど、去年も何回かTV出演をした事はある。 問題はその後に聞こえた言葉だ。……なまほうそう、ナマホウソウ?なんだろ、それ? 「ん?どしたの理央奈。小刻みに震えちゃって。そんなに嬉しかった?良かったわねー」 「……よ……ない。ど……よう……」 「何をぶつぶつ言ってるの?何かあるならハッキリ言いなさいよ」 「な、生放送って、あの生放送?撮り直しのきかないって言うあの?」 「そうよ?生で放送するから生放送。まんまじゃない」 「む、ムリムリ!マジでムリ!アタシ、生放送なんてムリだって!緊張でヤバイんだけど!なにも出来なくなっちゃうって、マジで!」 最早、頭の中はパニック状態だ。 「はぁ?」と呆れ顔の阪井先生から目を逸らし、大河とアリサに助けを求める。 「た、大河とアリサも生放送なんてやだよね!?緊張するよね!?」 「落ち着け、理央奈。TV出演はこれまでにも何度もしてきただろう。生放送だろうとなんだろうと、大差はないはずだ。問題ない」 「いやいやいやいや。収録と生は違うでしょお!?あ、アリサは?アリサはどうなの?」 「……?べつに」 「なんで2人とも緊張と無縁なの~?マジでありえない……」 アタシががっくりと肩を落とすと、頭上から大河の力強い声が聞こえてきた。 「理央奈、トップスターになるのであれば、TV出演を避けて通ることはできない。……注目を浴びるのが苦手な事は理解しているが、いつまでも目を背けている訳にもいかないんだ。覚悟を決めろ」 トップスターと言う単語に、アタシは落ち着きを取り戻す。 ……そうだ。子どもの頃からの憧れ、トップスターにいつかアタシはなるんだ。 だから――。 「大河……。うん、分かった。取り乱してゴメン。正直ビビッてるけど、大河とアリサに遅れる訳にはいかないからね!や、やってやろうじゃないの!」 「フ」 大河がアタシにやさしく微笑む。 ……なんか、最近アタシばっかりみっともない姿を見せてる気がする。悔しいなぁ。 「話はまとまったー?んじゃ詳細はまた連絡するから今日はこれで解散ね。明日からはダンスの練習を本格的に始めるからそのつもりで。それじゃね~」 どこまでもマイペースな阪井先生が手をヒラヒラさせながら練習室を後にする。 先生の言う通り、明日からは本格的な練習が始まるのだ。気を引き締めないと。 初めてのことだし、緊張はするけど、生放送だってちゃんとこなしてやるんだから!
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