Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



 獅子王大学付属高等学校の生徒会室。
 私たち蒼牙のメンバー3人は生徒会に入らなければならない。まぁ、蒼牙であることの必須条件みたいなものだ。トップスターになる者は、ダンスはもちろん様々な業務をこなして、人として一人前である必要があるからな。
 今日は土曜日だから午前中授業のみ。午後からはダンス練習をして、その後に仕上げないといけない生徒会の仕事をこなしている。
 最近は校内選抜があったり、テレビの生放送の出演のために関東に行ったりしていたからか、少し業務がたまっていたようだ。もう時計の針は6時を指している。

「ふぅ~、あとは球技大会の企画案をまとめて終了だね。はい、大河」
「ああ、ありがとう」
「トーナメント表……あみだでいい?」
「ランダムになれば、なんでもかまわないぞアリサ」

 理央奈がまとめてくれた資料に目を通しながら答える。
 よし、この資料なら問題ないな。

「ん」
「大河、トーナメント表できたみたい」

 アリサが画面をこちらに向けてくれていたようだ。理央奈の声に気付いて画面に目をやると、学年、クラスがランダムにあてがわれたトーナメント表が仕上がっていた。

「ありがとう、アリサ」
「ん~ん」
「どういたしましてってさ」
「理央奈も資料、完璧だったぞ。ありがとう」
「ちょっと、まっすぐ言われると照れるから!」
「ははは、ふたりともお疲れ様。これで、たまっていた業務は終了だ。暗くなってきたから早く帰り支度をしようか」
「りょーかい。大河もお疲れ様~。」

 理央奈が軽く手を振りながら立ち上がり、片付けを始めた。アリサもパソコンをケースにしまいこんでいる。そのとき――

――ガタガタッ

 一瞬、どこかから何かを動かしたような物音が聞こえ、私達は思わず顔を見合わせる。
 どうやら生徒会準備室から聞こえた物音のようだ。

「な、なに今の音!?」
「……となり」
「隣の準備室からだよね……。こんな遅くに誰もいないんじゃないの?」
「そうだな。職員室に先生方がいるだけのはずだ」
「どろぼう?」
「いや、うちの学校のセキュリティは完璧のはずだ。しかもここは最上階だから簡単には入れない」

 2人とも不安そうに瞳を揺らしている。

「少し調べてくる」
「大河!?危ないよ、誰かいたらどーすんの!先生呼ぼうよ」
「だが泥棒だという確証もないまま、先生方に迷惑をかけられないだろう」
「でもさぁ……」

 理央奈が頭を抱えて溜息をついている。アリサもどこか不服そうな表情だ。
 私としては2人を危険に巻き込みたくないのだが……。

「ん」
「だよね、アリサ。調べに行くならアタシ達も一緒に行く」

 2人の瞳に強い意志を感じた。こうなってしまっては、私の意見は聞いてくれないだろう。

「仕方がない。2人とも、危険だと思ったらすぐに逃げるんだぞ」
「大河こそ、無茶しないでよ」
「ん!」

 帰り支度もそこそこに、私達は様子を見に行くことにした。

***

 生徒会準備室のドアを開け中に入る。
 普段あまり使わないからか、部屋の中はひんやりとした空気が漂っている。

「薄暗いな」

――カチッ

 アリサが部屋の電気を付けようとスイッチを入れてくれた。
 ……だが、部屋は薄暗いままだ。

「むー」
「え、電気点かないの!?」
「そういえば、節電とかで普段使わない部屋の蛍光灯を外しているらしい。準備室は資料しか残していないし、滅多に使わないから外されたんだろう」
「マジで!?」
「まだ外の光がうっすらと入る。見えないことはないな」

 部屋の様子を見ながら確かめるように言うと、理央奈が力いっぱい首を振る。
 理央奈も眼がいいはずだ。見えないことはないだろうが、何故か様子が変だな。

「いやいやいや!ちょっと雰囲気あるんじゃないこれ!」
「雰囲気とは?」
「出そうだってこと!」
「……トイレ?」
「ちがう~~~~~!!!!」

 理央奈がかんしゃくを起こしてしまった。度々こうやって怒らせてしまうな……。反省しなければ。
 だが、どういうことか全く見当がつかず、アリサと顔を見合わせる。

「アリサは何が出そうか分かったか?」
「ぜんぜん」
「もう!幽霊とか出そうな雰囲気だって言ってんの!……でもさ、ホントに人いなさそうじゃない?」
「……ふむ。確かに、人の気配はまったくしないな」
「マジ勘弁してよ~!アタシ心霊現象とか苦手なんだからさぁ……」

 理央奈ががっくりとうなだれている。私は目に見えるものしか信じないから、幽霊だとか心霊現象は平気なんだが、……理央奈は苦手なのか。
 新しい一面が知れたと関心していると、アリサが服の裾を引っ張って注意を引き付けてくる。電話の画面を見せたいらしい。どれどれ……

「獅子王高校の七不思議?」
「ん!」

 アリサがキラキラした表情で見上げてくる。
心霊現象なんかが好きなのだろう。アリサから嬉しいという気持ちがあふれ出ているように見える。表情は普段とあまり変わらないのだが。
 アリサは電話を手元に戻し、なにやら打ち込んでいる。……と、電話にメッセージが表示された。

・アリサ:『タイガ、リオナ、ここに載ってる心霊現象じゃない!?ヾ(*゚∀゚*)ノ キャッキャッ』

 !この1、2秒で打ち込んだのか。恐るべき速さだ。

・アリサ:『いつか心霊現象起こるかなって、密かに期待してたんだ~!3人でさっきの物音の謎を解明しようよ!(`・ω・´)』
「アタシは嫌だからね!」

 私と同じように、電話の画面に表示されたメッセージを見て、理央奈がズバッと言い切る。先ほど苦手だと言っていたのだ。心霊現象の謎の解明なんてもってのほかだろう。
 だが、アリサも引き下がる様子はない。
珍しい。いつもなら不服そうにしていても、しぶしぶ引き下がるのだが。よっぽど謎解きが好きなのだろうか。いや、今回の場合は心霊現象そのものが好きなのか。

・アリサ:『リオナお願い!アリサ気になって眠れなくなっちゃうよ~(ノД`)エーン』
「う……」

 アリサがまたメッセージを送る。普段は何事にも無関心なアリサのお願いに理央奈もたじたじになっている。

「あー、もう!」

 おっと、ここで理央奈が折れたようだ。額に手のひらをあてて、観念したように声を上げた。

「わかったわかった。アリサに付き合ってあげるよ」
・アリサ:『やったー!リオナだいすき♡(´∀`*)』

 メッセージを送ると、アリサが理央奈の手をぎゅっと握った。アリサなりの嬉しいという表現に、理央奈も微笑を見せる。
 2人の仲睦まじい様子を見守っていると、視線に気付いた理央奈が睨んできた。少し、照れくさそうだ。

「ちょっと大河。何、微笑ましく眺めてんのよ」
「ははは、解決してよかった。では、謎の解明にとりかかるか」
「いーけど。マジでなんか出てきたら責任とってよね」
・アリサ:『ここのサイトによるとね、生徒会準備室には昔、先生に恋をしてその恋が叶わなかった生徒の思念がさ迷っているんだって!その子はそのまま進学したんだけど、恋の未練がこの教室に残っちゃったらしいよ(*´∀`*)』

 理央奈とのやりとりの間にアリサが打ち込んでいたらしい。メッセージが届いた。
 だが、まだカチカチと打ち込んでいるところを見ると、なにやら続きがあるらしい。

・アリサ:『先生とこっそり会うのは、放課後みんなが帰った後しかできなかったから、怨霊があらわれるのは夕方の6時頃。だれもいない教室から物音がして、その後、生徒のうなり声が聞こえてくるって!どんな声なんだろ~ワクワクするね(≧∇≦)』
「6時!?さっき物音がした時間じゃない!」

 理央奈は怖いのか、私の二の腕をつかんでくる。無意識に力が入っているようで少し痛い。……痛いぞ。

「理央奈……、少し力をゆるめてくれな――」

――ぅうう……

「「キャー!!!」」

 声がした途端、理央奈とアリサが同時に叫んだ。叫んだ言葉は同じだが、言葉に含められた感情は全然違うものだ。それぞれ恐怖と歓喜でテンションが上がり、私にしがみついてくる。

「キタ……!」
怖くない怖くない怖くない幽霊なんていないんだから

 アリサは私の服の裾をぶんぶんと引っ張り興奮を隠しきれない様子だ。理央奈は両手で私の腕をつかみぎゅっと目を閉じてぶつぶつと何か呟いている。

「ふたりとも少し落ち着くんだ」

 これでは謎の解明どころではない。なんとかして二人を落ち着かせて話をしないと。
 どうしようかと、何気なく室内を見渡してみると、奥でゆっくりと動く影が見えた。
 影の正体を見破ろうと目を凝らしてみるが、入った時よりも暗くなっていたため、良く見えない。
 だが、影は段々とこちらに近づいてきているようで、うっすらとおぼろげな輪郭が見えてくる。華奢な体つきでおそらく女性ではないか。
 しかも、見覚えがあるシルエットのような気が……
 ん、もしかして――

「うぅぅー……。ん、あんた達、なにやってんの?」
「「阪井先生!?」」

 なんと、心霊現象の正体は阪井先生だった。

「ここから聞こえた物音やさっきのうめき声の正体って、阪井先生だったの?もう、マジでビビったんだからね!」
「ん~!」

 理央奈は安心したのか、いつもの調子が戻ったようだ。
 アリサは心霊現象の正体に不満があるようで、頬を膨らましながら阪井先生をにらみつけている。

「ゴメンゴメン。って私なに謝ってんだろ。……ところであんた達、ここで何やってんの?」
「私達は、先ほどまで生徒会の仕事をしていました。帰り際、この準備室から妙な物音がしたので様子を見に来たのですが……」
「なるほどね」
「阪井先生こそ何をしていたのですか?」
「えー私?えーっとね……んーっと」

 阪井先生はなぜか言い辛そうに口ごもる。

「おさけ……」
「ギクッ」
「また朝方まで飲んでたんですか?」

 理央奈が疑わしげな表情で阪井先生を見つめる。アリサも眉間にしわを寄せている。

「う、二人とも目が据わってるわよ。はぁ~ごまかしきれそうにないね……」

 そういって、阪井先生はこれまでのいきさつを話し始めた。
 阪井先生によると、今日学校に用事があることをすっかり忘れて、古くからの友人と朝方まで自宅でお酒を飲んでいたらしい。そして、ろくに睡眠もとれずお酒が抜けきらないまま学校へきて、準備室で資料を探していた……と。
 その最中、身体に限界がきて意識が吹っ飛んだらしい。そしてそのまま、私達が準備室の様子を見にくるまで深い眠りについてしまったようだ。

 ……なんというか、自由な人だ。

 その後阪井先生は、理央奈からは本当に恐かったと説教され、アリサからは本当に心霊現象だと期待したのにと恨めしげな視線を浴びせられていた。

 まぁ、トラブルはあったがダンスだけでは知れなかった2人の素顔が見れてよかったな。
 充実した気分に満たされている私の横で、阪井先生は2人にこれからはお酒は控えるように約束させられてうなだれていた。


–END–


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