Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー


「理央奈と桐栄のお悩み相談室~!」
「わー。どんどん、ぱふぱふー」
「二年生のアタシたちが、後輩の悩みを解決するコーナー」
「頼れる先輩たちがどんな難題もズバッと解決。すぐに手が出るチームメイトにも気に入られる方法や、机の下の見えないところで足蹴り合ってる後輩との適度な距離の取り方もまるっと伝授しちゃうよー」
「そうそう人間関係って複雑だもんねー、って何でよ。もっとあるでしょ、ダンスのこととか学校のこととか」
「チームメイトに直してほしいところとか」
「そう! 大河もアリサも直してほしいところばっかりなんだけど、言っても全然聞かなくってもうほんと大変で」
「…………」
「――って、そんな感じで、誰でも何かしら困ってることってあるでしょ? せっかくだし、アタシたちに何でも訊いてよ」
「あるといえばありますけど……」
「大抵のことは自助努力で何とかなりますし」
「何でもいいよ! あたしも理央奈ちゃんも二年生だから、少しは相談に乗れると思うよ。ほらっ、先輩を立てると思ってさ」
「じゃあ水川すみれ、君から言いなよ」
「えっ、私? そうね……じゃあ、その、大したことじゃ、ないんですけど」
「なになに? 何でも言って」
「桜映が、何かにつけて抱きついてくるんです」
「!?」
「私も恥ずかしいとは思うんですけど……嬉しいことがあったときとか、テンションが上がると抱きつき癖が出るみたいなんです。香蓮は慣れている様子なんですけど、私はまだちょっと……」
「すごく楽しそう! チームみんな仲良しだねっ」
「でも急に来られたり人前だったりすると、どうしていいかわからなくって……。それに桜映はリーダーですし、もっと落ち着きを学んでもらわないと。せめて回数が減ってくれたら……」
「そうだ。良くない、それはよくない」
「美柑もそんなときがあるかな、見た目通りで可愛いんだけど。あ、これオフレコでお願いしますね」
「理央奈ちゃんはどう思う?」
「え? 別に良くない?」
「ええ!?」
「親しい友達にスキンシップぐらい普通でしょ? アタシはあんまりしないけど」
「オッケー、解決だね!」
「いえまだ何も」
「じゃあ次は晶ちゃん!」
「…………」
「水川さん……」
「……じゃあ僕は、惺麗のことを相談しようかな。先輩たちは惺麗のこと、どれくらい知ってるんですか」
「九条院家のお嬢様だっけ。ヨーロッパの社交ダンス界では知らない人はいないってくらいの選手だって、あたしでも聞いたことあるよ」
「そう、超がつく程のお嬢様で豪邸住まいで、誰に対してもプライド高くて何をやるにも完璧主義。そして常識のじょの字もなくて痛々しいくらいの超ブラコン。口を開けば素っ頓狂なことを言い出すのに勉強もその他もトップレベル。身の回りは執事任せで、何かあればすぐに自家用ヘリを迎えに来させたり」
「和泉さん、それ以上はさすがに」
「すごいなあ。有瓜ちゃんも結構いいトコのお姫さまだけど、自家用ヘリは見たことないや」
「聞きしに勝るとはこのことね。友達に話しても信じてもらえない自信があるわ」
「まさに小説より奇なり。フィクションでももう古典を通り越して化石みたいなスペックだよ」
「ね、ねえねえ……お金持ちってことは、家では犬とか飼ってたりする? やたらおっきな白い犬とか?」
「え? いや、飼ってなかったですけど……」
「あ、そう……(がっかり)。桐栄、次行こっか」
「はーい。解決! 次は苺香ちゃん!」
(えー……)
「……ええと、私はですね。ダンスも学校も全然関係ないんですけど、リーダーの美柑に『妹になれっ』と言い寄られてて。……まぁときどき? 目がちょっと怖いというか」
「妹? どっちかって言うと鳴宮さんの方がちいさ」
「和泉さん、しーっ」
「鳴宮さんは二人姉妹よね。あまり詳しくないけれど、そうすると養子縁組とか?」
「そういう意味じゃないと思うよー?」
「うんうん、わかるわかる。まいまいって女子に好かれそうだもんね」
「まいまい?」
「あたしもわかるなあ。その胸! そのメガネ! 一家に一本は欲しいよね」
「眼鏡屋に行って買ってください」
「特にその胸は取り替えてほしいくらいだよねぇ」
「その目、その目です。桐栄さんいま美柑と同じ目してます」
「たしかに、ちょっと近寄りがたい目つきね。……和泉さん?」
「あ、いや、ううん、コホン。別に見てないから」
「別に減るもんじゃないし、いいんじゃない? じゃあ次、桐栄!」
「解決してない……」
「あたしも? そうだなぁ。悩みなんて無いかなー?」
「さっき、机の下で蹴り合ってるとか聞こえましたけど」
「あっしのことじゃあございやせん」
「なになに? 誰とケンカ中? なにしたの?」
「いやいや、ケンカなんてしてないよ? いつもニコニコ桐栄ちゃん。にぱー。――あ。でもそういえばこれ友達の話なんだけどどうせだから相談しちゃおっかなー。その友達の後輩に結構な有瓜ちゃんファンの女の子がいて、有瓜ちゃんの言うことだったら何でも聞きすぎるところがあって困ってるんだって」
「それって、例えば?」
「お家の方で外せない大事な用があったのに、有瓜ちゃんが気まぐれで押し付けた雑用をずっと残ってやってたり。〆切までまだだいぶあったのに『有瓜ちゃんにもらった仕事だから』ってはりきっちゃって。優先順位がぜんぶひっくり返っちゃうみたい」
「尽くし系ですか」
「やりすぎると心配ですね」
「自己責任なんじゃないかな。その人の幸福は僕たちが決めていいことじゃない」
「大枠では賛成だけど、得てして報われないことの方が多いのよね」
「なんか見てらんないなーって。友達がね」
「その桐栄の友達さ、近くで見てるんでしょ? 見てらんないなんて言ってないで、手を貸してあげなよ」
(初めてまともな回答が!)
「なかなかそうもいかないみたいで」
「もー! じゃあ桐栄が間に入って話つけてあげたら良くない? 解決!」
「投げた!?」
「はーい。じゃあ最後は理央奈ちゃんだね」
「アタシの番ね。うちのアリサのことなんだけど、ちょっと聞いて! アリサってばどこでも寝る癖があって、いっつも眠そうにしてるの。話の途中でも授業中でもお構いなし。こないだなんか練習中に柔軟しながら寝てたんだから! ありえなくない? どうにかしないと絶対良くないよね!」
「へえ。惺麗のテンションと足して二で割りたいですね」
「たしかにいつも眠そうにしてますよね。寝不足かしら」
「ある意味、いちばん適応能力高そうです」
「それってとってもすごいことじゃないかな!」
「いやいやいやいや! 心配でしょ! いつも引っ張ってかないとちゃんとついてきてるかも不安だし」
「なんか小動物みたい」
「ええ、先輩に失礼かもしれないけれど、ちょっと可愛いわね。ふふっ」
「わずかな時間を縫うようにして体力を温存して、ここぞというときに発揮する。すごい特技じゃないですか! しかも可愛いなんて、さすが蒼牙です!」
「じゃあ満場一致で直さなくていい方向で。はい解決ー!」
「ちょ……ええー!?」
「結局、誰の相談も解決していないじゃないですか」
「あーもう! じゃあ初めから!」
「じゃあ一周して、すみれちゃんどーぞ!」
「えええ……」

–END–

ページの一番上へ