昼休み。香蓮と一緒にお昼を食べ始めたすみれが、早々に切り出した。 「ハァ……。今日の体育は疲れたわね、色々と」 「あはは、すみれちゃん大人気だったもんね」 「香蓮ったら。笑いごとじゃないわ。それはそうと、もしかして香蓮が前に手伝っているって言ってた友達って、さっきの春日さんのこと?」 「う、うん。そうなの。よく分かったね、すみれちゃん」 「まぁ、噂と言うか話題になってたから。ダンスチームのメンバーを勧誘している生徒がいるって」 「なるほどー」 「でも、香蓮には申し訳ないけど、やっぱり私、ダンスチームには入れない」 「あぅ。かれんが話す前に断られちゃった」 「誘ってもらえるのは嬉しいけど、私にも色々都合とかあるから」 「う~ん、そっか。……すみれちゃん、前にダンスを習っていたりしたの?すごくきれいなダンスだったから、初心者さんじゃないと思ったんだけど?」 「そうね。今日の授業でやったようなダンスをしていた訳ではないけど、小さい頃からバレエをしていたわ。基礎として通じる部分もあるし、バレエのレッスンの一環としてダンスの勉強をしたこともあったから、そのせいじゃないかしら」 「へぇ~。すみれちゃん、バレエやってたんだー。……あれ?今はもうやってないの?」 「えぇ。中学3年でやめたの」 「そっか~。なんだか勿体ないなぁ。あんなに上手なのに」 「ありがとう。でも、バレエは思いっきりやったから悔いはないの。それに、高校では勉強に集中したくって。ごめんなさいね」 「ううん。だいじょぶだよ。気にしないで。……お話長くなっちゃったね。ご飯食べよ?」 「えぇ。そうね」 それ以降、ダンスの話題は挙がらなかった。だが、香蓮の胸中に授業中に見せたすみれの笑顔が、刺のように引っ掛かっていた。 「そっかぁ。残念だなぁ……」 放課後、帰り道を歩きながら香蓮は桜映にすみれの話をしていた。桜映は話が終わると、わかりやすく落ち込んで見せた。 「うん。すみれちゃん、勉強に集中したいって」 「う~~ん……」 「東先生も言ってたけど無理強いはできないし、さえちー、明日からまた頑張ろうよ。もしかしたら、すみれちゃんのダンスを見て興味を持ってくれた子もいるかもしれないよ」 「う~~~ん……。いや!やっぱりもう一回だけ、水川さんと話がしたい!」 「さえちー……。それは――」 「うん。水川さんにイヤな思いをさせちゃうかもしれない。それでもあたし、もう一度きちんと話をしてみたい。だって、踊ってるときの水川さん、すごく楽しそうだった!ホントにダンスが好きなんだなって、あたし思ったの!あんな笑顔をする人がダンスをしたくない訳ないよ」 その言葉に、香蓮はすぐに言葉を返すことができなかった。 すみれの笑顔は何回か見たことがある。少なくともクラスの中では自分が一番見ていると思う。 だが、あんな笑顔は――香蓮が羨ましいと思った、輝くような笑顔は、今日まで見たことがなかった。 「……かれんも、すみれちゃんのあんな楽しそうな顔、初めて見た」 「うん」 香蓮の様子からなにか感じたのだろう。桜映はそれ以上、何も言わなかった。 「そうだね。かれんもすみれちゃんの笑った顔がもっと見たい。ダンスをしていた時のあのキラキラした笑顔を。……さえちー、かれんももう一度、すみれちゃんとダンスの話をしたい。すみれちゃんの踊っている姿が見たいって、かれん、言えてないから!」 「うん、うん!ありがとう香蓮!今度は2人で水川さんと話そうよ!早速明日にでも!」 「もちろんだよ!…………あ。でも、さえちー、明日土曜日で学校お休み」 「へ?」 どこからともなく、季節はずれの木枯らしが吹いたような気がした。
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