すみれの言葉を聞いて、桜映と香蓮は手を取り合って喜んだ。 「やったね、さえちー!すみれちゃん、入ってくれるって!」 「うん!うん!香蓮のおかげだよ!ホントにありがとう!」 「かれんはなにもしてないよ。さえちーが頑張ったからだよ」 「ううん。香蓮が手伝ってくれなかったら、きっとあたし、こんなに頑張れなかったもん。だから、香蓮のおかげ!」 「さえちー……。えへへ、ありがと」 「あのー、そろそろいいかしら?私、返事を貰ってないんだけど……」 喜びのあまり返事を忘れて盛り上がる2人へ、すみれがあきれた顔で声を上げた。 その声に慌てて向き直った桜映は、コホンとわざとらしく一呼吸置き、手を差し出しながら応えた。 「もちろん大歓迎だよ。チームに入ってくれてありがとう、すみれちゃん」 突然下の名前を呼ばれたすみれは、少しだけ顔を赤くしながらもまっすぐに桜映の目を見つめながら手を握り返した。 「これからよろしくね、桜映。私が入った以上、さっきみたいなダンスは認めないからね。今のままじゃ蒼牙みたいになるなんて夢のまた夢なんだから。わかった?」 「す、すみれちゃん、なんか握る力、強くなってなーい?」 「桜映の気のせいよ。……ふふっ」 「エヘヘ」 「太陽、沈んじゃうね」 灯りがつきはじめた周囲の街灯を見やりながら桜映が空を仰いで呟いた。 その声に腕時計を確認したすみれが続けて口を開く。 「えぇ。今日は遅いしもう帰りましょう。ダンスについてはまた明日、学校で話しましょう」 「うん。東先生にも言わなくちゃ!あと1人集めればチームが作れますって!よーっし、明日からも頑張るぞー!」 「――ううん、さえちー。もう3人集まってるよ」 「へ?」 拳を突き上げていた桜映が間の抜けた表情で後ろを振り向くと、そこには両手をぎゅっと握り締めた香蓮が、真剣な面持ちで立っていた。 すみれはそんな香蓮の様子を微笑みながら見ていた。 「香蓮?いま、なんて?」 桜映が不思議そうな顔で香蓮に訊ねる。 「さえちー、前にかれんをダンスチームに誘ってくれた時、かれんがなんて言ったか覚えてる?」 「う、うん。返事は保留にして、ちゃんと考えてから決めたいって言ってくれたよね」 「あの日からずっと考えてたの。かれんはどうしたいんだろうって。それでね、毎日さえちーからダンスの話を聞いたり、すみれちゃんのダンスを見たりしてる内にね、どんどんダンスのことが気になっていったんだ。2人のキラキラした顔を見て、ダンスってすごく楽しいんだなって分かったし、そんな2人を見て羨ましいって思った。――かれんも、2人みたいになれるかなぁって」 「香蓮……」 桜映はそれ以上なにも言わずに、香蓮を見つめた。 「かれん、運動は苦手だけど、2人みたいになりたい。あんな風にかれんも笑いたい。だからさえちー、かれんもダンスをやりたい。さえちーとすみれちゃんと同じチームでダンスがしたい。だって、かれんもダンスが大好きだもん!」 言い切った香蓮は、特大の笑顔だった。 そんな香蓮に目を潤ませながら桜映が抱き付いた。 「香蓮~!ありがとう~~~!!あたし、香蓮が一緒にダンスやってくれてすっごい嬉しい!これからもよろしくね!!」 「えへへ。さえちー、痛いよ」 「それぐらい嬉しいんだもん!香蓮とすみれちゃんと一緒にチームが作れるんだもん!ほらほら!すみれちゃんもこっち来てよ!」 「え?なんで私も?」 「いいからいいから。すみれちゃんともぎゅ~~~~!」 首を傾げながら近付いてきたすみれに香蓮を片手に廻したまま桜映が抱きついた。 「きゃっ。ちょっと桜映!?いきなりなにするのよ!?」 「あはは。すみれちゃんもこれからたくさん抱きつかれるよ?さえちー、抱きつき癖があるから」 「なんなのよその癖はー!ちょっと桜映!どこ触ってるのよ!」 「よーし!これから3人で思いっきり踊ろうね!絶対に楽しいよ!!」 満面の笑顔で桜映が声を上げ、抱きつかれたままのすみれと香蓮も、その笑顔につられて笑い始める。 こうして新しいダンスチームが街灯のスポットライトの下で誕生した。 彼女達の足元には新しい花が芽吹き始めていた。
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