翌日。 つつがなく授業を終え、あっという間に放課後を迎えた。 昨日の時点で生徒会の仕事も一段落ついており、今日から当面の間、放課後はみっちりダンスの練習だ。 ……練習自体はイヤじゃないんだけど、ちょっと息抜きしたいかも。 最近は生徒会の仕事も忙しくて、全然ショッピングとかに行けてないからなぁ……。 「理央奈、どうかしたのか?」 「え?」 教室から練習室まで向かっていると、前を歩く大河が突然足を止め、アタシへと振り返る。 いきなりの事で、思わず面食らってしまう。 「な、なにが?」 「いや……。いつもより少しだけ元気がないように思えた」 「え」 「何かあるなら話してくれ。私でよければ話を聞こう」 「……ん」 小さい力を感じて後ろを見ると、アリサが僅かにアタシの手を引いていた。 アタシを見上げ、首を傾げている。 その目は「大丈夫?」とアタシに聞いているようだ。 ……まったく、この2人は。 普段は何を考えているか分かり辛いのに、こういう所は素直なんだから。 アタシは頬が緩むのを抑えられなかった。 笑顔になったアタシを見て、大河が怪訝そうに訊ねる。 「理央奈、どうした?」 「なんでもないよっ♪2人とも大袈裟過ぎだって。ちょっとショッピング行きたいなーって思っただけだよ。だからさー?たまには3人で遊びに行こうよ!リフレッシュも大事でしょ?」 「なんだ、そんな事か」 「もう!いつも思ってるけど、大河もアリサももうちょっとオシャレとかに興味持とうよ!折角かわいいんだからさ!あ、そうだ♪今度一緒にショッピングに行こうよ!2人の服とかアタシが見立ててあげるからさ」 アタシの様子を見て安心したのか、2人は呆れたように微笑む。 ……なんだか、アタシが駄々っ子みたいでちょっと恥ずかしいんだけど。 「ていうかさ、2人は練習ばっかりで息詰まらないの?」 「ああ。むしろ練習しないほうが落ち着かないな」 「ぐっ、大河に聞いても無駄だったか……。アリサは?」 「……ん」 「えっと?『リオナ見てると楽しいから』ってなんなの、それ!?」 「諦めろ、理央奈の負けだ。……とは言え、時にはリフレッシュが必要な事については私も異論はない。近々休日を作るから待っていてくれ」 ……そう言われちゃうと、アタシも強く出れないじゃん。 だけど、ただ引き下がるだけじゃシャクでしょ! 「ただの休日じゃなくて、3人で遊びに行く休日ね!たまにはいいじゃん!ね?」 「ふぅ、仕方ないな。……アリサもそれでいいか?」 「……はぁ」 「2人して『やれやれ』みたいな表情するのやめてよ!」 「よし、では練習室に向かうか。誰かは知らないが学校の紹介する人物を待たせるのも良くない」 「ちょ、ちょっと!無視しないでよ!」 アタシの言葉には取り合う事なく、大河がずんずんと歩いていく。 後ろを見ればアリサが背中を突っついてくる。このマイペースコンビめ……。 「はいはい。アタシも行きますよ!行けばいいんでしょ?」 わざと声に出してから、いつものようにアリサの手を引いてアタシも大河に続く。 遊びに行く日は散々連れまわしてやるから、覚えてなよ……! *** 歩く事、数分。 アタシ達3人は普段から使用している蒼牙専用の練習室の扉を開けた。 練習室と言うだけあって、通常の教室と大きく違う所がある。その大きさだ。 現在のダンスはウィッシュ――正式名称ウィングシューズを履いて行うのが主流となっている。 ウィッシュを身に着けると運動性が向上する為、全力でダンスを行う際はかなりのスペースが必要となる。 また、運動性能をうまく向上させる為、最近はダンスだけでなく老若男女問わず多くの人に注目されている、らしい。 大河の受け売りだからアタシはその辺あまり詳しくないんだけどね。 「んー?」 特に理由もなくそんな事を考えながら教室を見渡す。 そこには――誰もいなかった。 「だーれもいないんだけど。大河、ホントに今日なの?」 「ああ、間違いない」 「って事は、これから来るのかな」 「だろうな。……ただ待っていても仕方ない。練習を始めよう」 言うが早いか、大河は練習着に着替えると、柔軟を始めた。 確かに、いつ来るかも分からない人を待ってるだけってのは退屈だよね。 「アリサ。アタシ達も準備しよ」 「ん」 柔軟を終えると、ウォーミングアップがてら基礎練習を行う。 それも終わりが近付き、本格的に学内選抜戦用の新曲練習を始めようとしたその時、扉がガラリと音を立てて開かれた。 開け放たれた扉の前には――。
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