「――と、言う訳」 「な、なるほどね。ありがとう、和泉さん」 最初は神奈先生の話に耳を傾けていた私たちだが、少し経つと呆れた様子の和泉さんから要点を纏めた話をしてもらえた。 神奈先生の方は、……まだ昨日の話をしてる。 「先生、もう僕から話したから」 「なに!?そ、そうか。正直話足りないがまぁ良いだろう。さて、九条院惺麗。そして須藤千彗子。そこにいる和泉晶とダンスチームを組むんだ!僕の指揮の下、キミ達を日本一に導いてやろう!」 瞬間、惺麗さんが神奈先生の前に立ち、機嫌の悪さを隠しもせずに声を上げた。 「不愉快ですわ!わたくしの与り知らぬところで勝手に話を進めるなんて、何様ですの!?チームのリーダーとして、この九条院惺麗、こんな勝手な話を認める訳にはいきませんわ!!」 「へ、へぇ。なるほど。な、中々の迫力じゃないか」 惺麗さんの剣幕に神奈先生が一歩後ずさる。 その様子を見て和泉さんボソッと呟く。 「生徒に対してビビリ過ぎ……」 「ビ、ビビッてなんかないぞ!」 神奈先生が和泉さんに反論している間に深く息を吐いた惺麗さんは、和泉さんへ向き直ってから落ち着いた様子で言葉を続けた。 「とは言え、わたくしたちに時間がないのも事実。なので、千彗子と同様の方法でテストして差し上げますわ。安住さん?あなたのダンスの実力を見せて貰えるかしら?」 「和泉だけど。……そもそも、僕と君は同じクラスだよ、九条院惺麗」 「まぁ、そうでしたの?それは失礼しましたわ。ええと、逸見さん」 「……馬鹿にしてる?」 和泉さんの声が少し不機嫌そうになった。 私のときもそうだったけど、惺麗さんは名前を覚えるのが苦手なのだろうか。 思わず、私が横から声を上げる。 「せ、惺麗さん。いずみ・あきらさんよ」 「あら失礼。では晶。よろしくて?」 「なんでこう、馴れ馴れしい人ばかりなんだ……」 「聞いてますの?貴方のダンスをわたくしに見せなさいと言っているのですわ!」 「……いいよ。ただ、僕も口だけの人とはチームを組みたくない。だから、九条院惺麗。君の実力も見せてよ。僕と勝負しよう。それでハッキリする」 和泉さんのその言葉を受けて、惺麗さんの雰囲気が変わる。 和泉さんを真直ぐに見据え、腰に手を当てた惺麗さんが口を開く。 「ほほう……。わたくしを九条院惺麗と知っての口振りだとしたら笑えないジョークですわね」 「冗談は嫌いだ。僕と勝負するの?しないの?」 「ハッ、良いでしょう、相手をして差し上げますわ!!後でほお面をかいても知りませんわよ!」 「……『吠え面』の事?……なんとなく君の事が分かってきた」 惺麗さんから目を背けることなく、和泉さんが小さく笑う。 その反応に、惺麗さんが少しだけ顔を赤くした。 「ッ!いま、わたくしの事を馬鹿にしましたわね!?良いでしょう、思い知らせてあげますわ!」 まさに一触即発と言った2人の雰囲気に私は神奈先生に助けを求めようとした。 「せ、先生。止めなくて良いんですか?」 「そ、そんな事言ってもな……。だって怖いし」 「先生がそんな事でどうするんですかぁ!」 「ま、まぁ待て。暴力に訴えるようなら止めなくてはならないが、真剣に、正々堂々とダンスで勝負を決めようというんだし、きっと大丈夫だ」 「本当に大丈夫なのかしら……」 不信感を隠せず、無意識に本音が口をついて出てしまった。 いけないと思い先生を見ると、神奈先生は私の声が耳に入っていなかったのか言葉を続けていた。――その表情は楽しそうに笑っていた。 「それに……」 「それに?」 「九条院惺麗と和泉晶。こんなに早く2人の全力が見れるなんて、僕は本当についている!ハッハッハ!」 「ついている?それってどういう――」 「そろそろはじまるぞ」 先生の言葉で2人に目線を戻すと、ルールの確認を終えた2人が簡単なストレッチをしていた。 どうやら、同じ曲を2人同時に踊って優劣を決めるらしい。(審判は本人も知らぬ間に神奈先生に決まっていた。) 「貴方が1年生の課題曲を知っていて良かったですわ。これなら負けた言い訳も出来ませんわね」 「その言葉、そっくり返すよ」 「フン。最後にもう1度だけ聞いておきますわ。本当に、この九条院惺麗と勝負をするつもりですの?完璧であるわたくしに勝てると思いまして?」 「当然。正直、こうなるのは想定外だったけど、勝負となれば話は別だ。やるからには全力で」 「……いい顔ですわ。では――始めますわよ!」 惺麗さんの声を合図に2人は同じ曲を踊り始めた。 私は、惺麗さんのダンスを見た事もあるし、その実力を知っているつもりだった。 しかし、今日、踊る彼女の姿を改めて見て思った。彼女の実力は私の想像を遥かに超えているのだと。 そして、和泉さん。彼女の実力も凄まじく高い。 勝負が始まる前、和泉さんには悪いが、惺麗さんの勝利を私は疑わなかった。 だが、彼女の実力は惺麗さんと遜色ない。 2人ともすごい……! 私は興奮を抑えられなかった。
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