あっという間に2人のダンスは終わった。 時間にして3分ほど。 しかし、とても密度の濃い3分だったと、そう感じる。 トクントクンと心臓の音が聞こえる。 はじめて惺麗さんのダンスを見た時、いやそれ以上に興奮しているかもしれない。 私はその興奮冷めやらぬままに、ダンスが終って見つめあう2人に拍手を送った。 そして、私の横に立つ神奈先生も一際大きな拍手を送っていた。 「ハッハッハッハッハ!ブラボー!ブラボー!2人とも実に素晴らしかった!」 「本当に、2人ともすごかったわ。私、感動しちゃった」 「オーホホホ!この九条院惺麗であれば当然の事ですわ!」 「どうも。……それより、結果は?」 和泉さんの言葉に私も惺麗さんも思い出したように神奈先生に注目した。 私たち3人から注目された神奈先生はと言うと。 「フム。こうやって注目を浴びているのも悪くないがこれも勝負だしな。勝者は――」 神奈先生が演出のつもりなのか、わざと間を空ける。 ふと横に目をやると、惺麗さんは目を閉じて満足げに笑っていた。 そして和泉さんは、聞こえないほど小さく、ふっと息を吐いた。 「――九条院惺麗くん!キミの勝利だ!!」 「当然ですわ!」 「ふぅ……」 「晶くん、キミもよく踊った。キミ達の間にほとんど差はない。だが――」 「はい、自分でも分かっています。悔しいけど、僕の負けだ」 「和泉さん……」 気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。 和泉さんが私の顔を見て、困ったように言う。 「そんなに心配そうな顔をしないでよ。僕なら大丈夫だから」 その時、神奈先生がパンと1度大きく手を鳴らした。 神奈先生はその行動にきょとんとしている惺麗さんへ目をやり、彼女に声を掛ける。 「さて。それでは惺麗くん、キミに尋ねよう。晶くんの実力を測るこのテスト、結果はどうだった?」 「え?」 私たちの3人の声が重なった。 気付けば全員が目を丸くして神奈先生の顔を見ていた。 「え?じゃないさ。これはあくまで晶くんの実力を見る為のテストだ。そしていま、晶くんは素晴らしいダンスを見せてくれた。彼女の実力はここにいる誰よりもキミが一番知っているはずだ。改めてもう1度聞こう。晶くんのテスト結果は合格か不合格か、どっちなんだ?」 ……そう言えばそうだった。 見れば忘れていたのは私だけではなかったようで、和泉さんは気の抜けたように呟き、惺麗さんは目を泳がせている。 「……忘れてた」 「え、ええ。勿論、そんな事は気付いてましたわ!それで結果ですわね、ええと……」 なぜだろう。その時、惺麗さんが私に何か言って欲しそうにチラチラとこっちを見ているような気がした。 だから、私は惺麗さんへ自分の素直な思いを伝えた。 「惺麗さん、私、和泉さんにチームに入って欲しい。惺麗さんと和泉さんがいれば、きっとトリニティカップに出れる!そう思うの!」 私の言葉を聞いた惺麗さんはこちらを向いて嬉しそうに微笑んだが、すぐに腕を組んで顔を背けてしまう。 そして、頬を少し赤く染めながら和泉さんへ声を掛ける。 「し、仕方ありませんわね!千彗子がどうしてもと言うので、晶、貴方のチームへの加入を認めて差し上げますわ!わたくしの寛大さに感謝してもよくってよ?」 「……僕は」 「晶。詳しくは知らないが、キミには目的があるんだろう?同じチームに惺麗というライバルがいる事は、きっとキミが目的を遂げる上で大きな力になると思うぞ」 顔を伏せてなにかを考えている様子の和泉さんへ、神奈先生がいままで聞いた事のないような落ち着いた声で話し掛ける。 私もそれに続いて、和泉さんへ直接自分の気持ちを伝えた。 「和泉さん、私からもお願いするわ。このチームに入ってもらえないかしら?」 和泉さんが顔を上げて先生と私へ目を向ける。 やがて、彼女はゆっくりと口を開いた。 「先生、須藤さん。……分かった。チームに入るよ」 先生と私がその言葉に喜んでいると、横から頬を膨らませた惺麗さんが声を上げる。 「ちょっと、晶?わたくしへの挨拶が聞こえませんわよ!?」 「はぁ。……これからよろしく、惺麗」 「フフ、晶?いつでもわたくしに挑んできてよくってよ?」 「はいはい」 「なんですの、その態度は!リーダーであるわたくしに向かって」 「惺麗うるさい……。あ、須藤さん。僕の事も名前で呼んでいいよ。改めてよろしく」 そう言うと、彼女は静かに、けれど優しく微笑んだ。 私は思わず息を呑む。なんだか上手く言葉が出てこない。 だが、直後に聞こえた惺麗さんの声で我に返る事が出来た。 「わたくしをスルーしましたわね!?」 「あ、あはは。何はともあれこれからよろしくね、晶さん。……あー、よかったぁ。なんとか3人集まったわ。……ああ、なんだかここまで長かったなぁ。……グス」 気付けば私は涙を流していた。 途端に惺麗さんが慌てた様子で聞いてくる。 「ち、千彗子?なぜ泣いているのです!?」 「惺麗がうるさいから……」 「わたくしのせいですの!?」 「あ、ごめんなさい。私、涙もろくって。チームができた事に安心したらつい」 「ま、まったく、人騒がせですわ」 「ごめんなさいね。心配してくれてありがとう」 「リーダーとして当然ですわ!」 「ふふふ」 「…………。あの、もしもし?僕の事、忘れてないかい?」 「まだいたの?」 「晶くん、ひどいっ!」 神奈先生の悲痛な声が教室内に響き渡った。
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