「うーん……」 その日、学校から帰った私は自室で頭を抱えていた。 九条院惺麗をチームメンバーに加えたい。その気持ちは変わらない。 しかし、どうすればいい。なんと言って勧誘すればいい。 あの時、教室でチームへの勧誘に辟易としている彼女を見たことが、私の悩みを一層深くしていた。 「うーーん……」 「ねえちゃん、ご飯できたってさー」 「むーーー……」 「ねえちゃーん。おーーい」 「んーーーー……」 「おーい。おーいってば!むー……。聞いてるのかよ!このババァ!!」 「だーれーがー、ババァですってぇぇ!!」 「ぎゃーーーーー!!」 一旦思考停止。 弟への教育は大事である。くすぐるだけだけど。 「なんかいも呼んだのに、返事しないねえちゃんが悪いのに」 「それにしても呼び方があるでしょう。もう、どこでそんな言葉を覚えてきたのよ」 「母ちゃんと同じこと言ってる」 「当然です、まったくもう。それで悠輝、なにかあったの?」 悠輝は9つ離れた私の弟で、最近はまさにやんちゃ盛りと言う感じだ。 「やっぱり話聞いてないじゃんか!り、りふしん?だよ、ねぇちゃん!」 「あ、あはは、ゴメンね、悠輝。あと、理不尽ね。それで?」 「ちぇー。母ちゃんがご飯できたから呼んできなさいって」 「わかった、少ししたら降りるね。ありがと、悠輝。……ふぅ」 「うん。……ねえちゃん、なにかあった?」 「え?」 顔を上げると、悠輝が気恥ずかしそうにこちらを見ていた。 「なんか、最近いつもむずかしい顔してるから。今日は帰ってきてからずっと部屋にこもってるし……」 「あ……。ごめんね悠輝。心配させちゃったね」 「べ、べつに心配なんかしてない!」 「ふふ。……そうだなぁ。それじゃ、悠輝に話を聞いてもらおうかな?」 「オレ?」 「ええ。ご飯の後にちょっとだけいいかな?」 「うん。わかった」 夕食の後、私は悠輝へ簡単に今の状況や悩みを話してみた。 悠輝には悪いが正解を求めての事ではない、ただ誰かに聞いて欲しかっただけだ。 「……と、言うことなの。話しておいてあれだけど、いきなりゴメンね。」 「ふーん。よくわかんないけどさ、ねえちゃんて頭いいのにバカだよなー」 「なっ!?」 「だってさー、そのなんたらいんって人とねえちゃん、話したこともないんだろ?それなのにウジウジ悩んでてバカみたいだなーって。話せばいいのに」 「いや、それは、そうかもしれないけど、作戦が決まってないって言うか……」 「さくせん?そんなの気にしなくたっていいじゃん。オレ、ゲームでさくせんを気にした事なんてないぞ。攻撃してボスを倒せば勝ちなんだもん。さくせんなんて攻撃しろ!だけでいいじゃん。違うの?」 「そんなに単純じゃなくてね。なんて言えばいいのかな。えーと、その」 「ねえちゃん、考えすぎー。そんなだから老けるんだよ。……あっ、やべっ!」 無意識に声に出てしまったのだろう。悠輝は思わず両手を口に当てている。 それに対して、私は意識して声のトーンを少しだけ下げながら笑顔で言葉を返した。 「ゆ-うーきー?誰が老けてるってー?」 「あ、あははは。オ、オレ、フロ入んなきゃ!じゃあなー!」 「こらー!……まったくもう。ふふっ。」 なぜだろう。具体的な方法が浮かんだ訳でもないのに、とても気が楽になった。 案外、悠輝の言う通りなのかもしれない。 「考えすぎ、か。そうね、まずは九条院さんとお話しないと。勧誘についてはそれから考える、でもいいのかも」 悠輝にお礼を言わなくちゃと考えながら、私は久々に卒業した先輩たちへメールを送る事にした。 新たにチーム<エトワール>へ入れたい子ができた事の報告を。
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