惺麗さんが静かに闘志を燃やしている頃、私――須藤千彗子は家のリビングでお煎餅を齧りながらTVを見ていた。 正直無理だと思っていた惺麗さんとチームを組めた事もあって気が抜けており、その顔は緩みっているようだ。 “ようだ”というのは、弟の悠輝が私を見て思わず口にした言葉を聞いたからだ。 「うわ、姉ちゃんキモッ」 「何か言ったー?悠輝―?」 「ううん、なんにも」 「なら、いいのよー」 「……ウザ」 「悠輝くーん?」 「なんでもないよ!」 悠輝の言葉は聞こえていたが、今日は特別に許してあげよう。 悠輝のおかげで惺麗さんとチームを組めたのだから。 「姉ちゃん、ニヤニヤしてなにかあったの?」 「あれ?悠輝に話してなかったっけ?」 「なんも聞いてないよ」 「そっか、ごめんごめん。今日ね、惺麗さん、ああ、この前話してた九条院惺麗さんね。彼女とダンスチームを組めたのよ!すごい緊張したけど、頑張って声を掛けてみて良かったわ。悠輝のアドバイスのおかげ。ありがとうね」 「ふ、ふん。だから言ったじゃん。考えすぎなんだよ、姉ちゃんは」 「うん、気をつけるね」 自然と会話が途切れたので、私も悠輝もTVのバラエテイ番組に目を向ける。 2人でお煎餅を食べている内にその番組も終わり、それを合図に悠輝が立ち上がった。 「オレ、お風呂入ってくる」 「久し振りに一緒に入るー?」 「子ども扱いすんなよ!」 「あはは」 悠輝がお風呂に向かう足音を聞きながら、私も明日の準備をしようかと自分の部屋へ向かうと、部屋の前で悠輝が首を傾げながら立っていた。 「どうしたの悠輝?やっぱりお姉ちゃんとお風呂入る?」 「ちげーよ!そうじゃなくてさ、さっきダンスチーム作ったって姉ちゃん言ってたけど、チームって3人いないといけないんじゃないの?」 「え?え、ええ。そうよ。悠輝、よく知ってるのね」 「何回も聞かされたから知ってるっつーの。でもさ、姉ちゃんのチームってまだ2人しかいないじゃん。あと1人はどうするんだよ?」 「どうするって……。それは、また学校でメンバーを探して集めるのよ」 「その、く、くじょういん?って人を入れるだけでもこんなに掛かったのに、そんな簡単に集まるの?」 「あぁ、そういうことね。大丈夫よ、悠輝。明日からは私と惺麗さんの2人でメンバー探しが出来るし、学校で一番人気の高かった惺麗さんがチームに入ってくれたんだもの。心配ないわよ」 「心配なんかしてねーし。つーか、またニヤニヤしてるし!」 「え、嘘。また顔緩んでた?」 「さっきからずーっとニヤけてるよ。キモイって」 「またそんな言葉使って。もう」 「へーンだ。調子に乗って、メンバーが見つからなくてもしらねーからなー」 まるで捨て台詞を吐いた悪人のように、悠輝はそのまま走って浴室へ行ってしまった。 悠輝の言いたい事は分かる。私も惺麗さんの自信に満ち溢れた姿を見るまではメンバー集めに不安があったのだから。 だけど、あの九条院惺麗がチームを結成した事は校内でもかなりのニュースのはず。 その高い注目度があれば、あと1人のメンバーを集める事はきっと難しくないだろう。 と、いまの私は考えていた。うん、きっと大丈夫。 ……とは言え、学校でもニヤけているのは流石にまずい。 明日からはまた気持ちを切り替えて、メンバー集めをしなくては。 チームメンバーを集めて終わりではない。 私たちはトリニティカップを目指しているのだから。
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