翌日。 休み時間に惺麗さんと話をし、放課後から本格的にメンバー勧誘を行う事になった。 想像していた通り、それまでダンスチームに入る事を拒んでいた九条院惺麗が――3人揃っていないとは言え――チームを結成した事は校内で大きな話題になっていたので、惺麗さんは上機嫌だった。 「オーホッホ!一挙一動に注目が集まってしまうとは、流石わたくしですわ!この完璧である九条院惺麗がいる以上、あと1人程度、簡単に集まるでしょう!むしろ、沢山集まりすぎて困ってしまうかもしれませんわね!」 「え、ええ。それじゃあ、放課後から頑張りましょうね?」 そして、その日の放課後。 当初、私と惺麗さんは別行動をして、各自でメンバーの勧誘に動いていた。 しかし、勧誘を始めてから少し時間が経った頃、交換したばかりの惺麗さんの番号から電話が入った。 電話で呼ばれた中庭に来てみると、腕を組み不機嫌そうに頬を膨らませている惺麗さんがベンチに腰掛けていた。 「せ、惺麗さん?ど、どうしたの?」 「どうもこうもありませんわ!この九条院惺麗に声を掛けてもらえただけでも喜ぶべき事ですのに、全員が逃げ出すとは!理解できませんわ!!」 「えええ!?」 どうにか話を聞いてみると、惺麗さんはどうやら勧誘してきた生徒全員に逃げられてしまったそうだ。 と言うのも、惺麗さんは全員に対してこんな勧誘をしていたらしい。 『もし。そこの貴方。わたくしのダンスチームに入りたくなくて?』 『はい?』 『そうですわね、とりあえず踊ってもらえるかしら?』 『え?え?』 『好きなダンスで構いませんわ。さぁ、貴方のダンスをわたくしに見せてくださいな』 ――なんて、いきなり言われたら逃げ出すわよねえ……。 心中で呟く。 そして私もうっかりしていたのだ。 本人に悪気がなかったとは言え、これまでに他のチームからの勧誘を全て断ってきた事で変な噂が立ち、いまの惺麗さん校内で若干浮いた存在になってしまっている。 その惺麗さんからいきなり『踊ってくれ』と言われたら、驚いてしまうのも無理のない事だ。 噂が発端となっている誤解は本人と直接話せばすぐに解けるものだと思うけど、当の惺麗さんは全く噂の事に気付いてないみたいだし……。(と言うか、注目されている事を喜んでいる。) となると、これから私がすべき事は――。 「と、とりあえず、明日からは私と一緒に行動しましょうか、惺麗さん」 そこまで話して、その日の勧誘は打ち切る事となった。 少し、メンバー集めに対しての不安が再来してきた。大丈夫……よね? *** ――その後。 その日から1週間が経過しても、メンバーは見つからなかった。 先日の1件があったので、以降は私と惺麗さんの2人で勧誘にあたっていたのだが、惺麗さんが嘘のつけない性格と言う事もあり、勧誘は難航した。 私1人で勧誘に行こうともしたが、そうすると惺麗さんが拗ねて『わたくしがいないところで決まったメンバーなんて認めませんわ!』と言ってしまうのでそれも出来なかった。 加えて、もうこの時期は学内選抜大会のエントリー締切が迫っており、別の部活に入っている生徒を除けば、ダンスチームに入っていない生徒がほぼいない状況となっていた。 はっきり言って、かなり絶望的である。大丈夫ではなかった。 「ど、どうしましょう……。惺麗さん、なにかアイディアないかしら!」 「そうですわね……。やはり、他の部活からスカウトするしかありませんわね!郷に入っては九条院惺麗に従えと言うやつですわ!!」 「ああ……もうダメなのかしら。ごめんなさい、先輩」 惺麗さんと出会った空き教室で私が椅子に腰掛けたままうな垂れていると、なんの前触れもなく、突然扉が開かれた。 そこには身長の高い男性と髪で片目を隠した女子生徒が立っていた。 「ハッハッハ!ようやく見つけたぞ、九条院惺麗!!まったく、こんな所にいるなんて僕以外には見つけられなかったろうな!しかし、僕に掛かればこの程度、造作もないのさ。フハハハハハハハ!ハ、げほっごほっ。ふぅ。どうやって見つけたかって?それは――」 突然の事態に、教室内が凍りついた気がした。喋り続けているその男性を除いて。
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